私立秀麗華美学園
「おはよう……?」


おはようを疑問系で言われるなんて、生まれて初めてだ。


「おーゆうかー……はよ……」

「生きてる?」

「かろうじて」

「普段やってないからよ。どうしたのこんなに急に、やる気になっちゃって」


言えるわけなかろーが。
ゆうかはそりゃあいつと演れたら嬉しいだろうから、俺の敗北を望むわけで。


「俺もやる時はやるんだよ」

「偉そうに言うのは結果が出てからね」


姫はぴしゃりと言い放った。





そして1時間目の地理の授業。俺はいつもの何倍も頑張ったつもりだったが、努力が意味を成さない時もあることを知った。


「セイシェルとか変な名前つけてんじゃねーよ!」


ちなみに国の名前だ。うちのテストでは、我が国からこの超マイナーな国までの最短距離とかが普通に出題される。


「花嶺さん」


忘れていただろうが、ゆうかの名字である。
別に忘れていようが構わない。人間は忘却の生き物なのだ。
花、鳥、風、月のどれかだとさえ覚えてくれればそれでいい。


「え、あ、何?」


ゆうかを呼んだやろーは、笠井だった。
穏やかな微笑を浮かべた紳士版笠井に、殺気に近いものを覚えた。


「昼休み、ちょっと薔薇園の裏手まで来てくれないかな」

「うん、わかった」


おいこらてめぇ、俺の姫に何の用だ


なんてセリフを吐けるわけがなく。
情けない騎士は盗み聞きで情報を入手し、昼休み薔薇園に行くことを決心するほかなかった。


あ、もう情けないとかわかってるって?

そーですかそーですか。
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