私立秀麗華美学園
「誰から見ても完璧な才色兼備、頼れるしっかり者ってレッテル貼られてるけど、実は結構めんどくさがりだったり、料理や裁縫が苦手だったり。

俺だけが知ってることが、もっと増えて欲しいって思うこともある。


社交界デビューも早かったけど、すげー社交性があって、大人もうまくあしらえるし、どんなお世辞や噂も上手に受け流すし。さすがゆうかって思うところも、もちろんたくさんある。

だけどたまに寮で2人になったりすると、本音隠さず俺なんかに悩み話してくれる時もあって、本当は辛くて弱音吐いたりして、悩み事のない人間なんていねえよなって思う。


でも俺はゆうかといたら、他の悩みなんてどーでもよくなる。ゆうかに嫌われることにだけは、結構毎日びくびくしてるけど。

こんな情けない、自覚症状のあるへたれの俺ができるたったひとつの大きな自慢は、曲がりなりにも、ゆうかの騎士であることなんだ」


ついに、赤みが差したゆうかの頬に、一筋の雫が流れた。
だけどそれはたった一筋だけで、それがゆうかの精一杯の強がりなのかもしれない。


「……ばか」


言われ慣れた言葉。
聞き飽きるほど言われた言葉。
でも今日だけは、その言葉が俺にとって最高の褒め言葉のようだった。


「これでも、本当に思ってんだからな」

「……全然、知らなかった」


涙目の、ゆうかが笑った。
その途端に俺は。


「和人、顔真っ赤」

「……夕日のせいだろ」

「どこから夕日が差してくるのかしら」


もちろん、午前9時前に差してくるような気まぐれな夕日には、出会ったことがない。


「ありがと。困らせるつもりじゃなかったんだけど。本当に、思ってたの。和人は私のこと、好きだと思い込んでるだけなんだろうなあって。でも、ちょっとだけ、感動した」


俺は、いつもとさして変わらないことを言ってるつもりでいた。
普段から気持ちは伝えてきたと思っていたし、ゆうかのことになったら周りが見えなくなるのもいつものことだった。

なのに、今は死ぬほど恥ずかしくて、顔に体中の血が集まっている。
絶対、耳まで真っ赤っかだ。顔から火が出るどころじゃない。顔が暖炉になりそうだ。
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