。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
改めて、キリと二人きりになったが、やはり沈黙が続いた。
10分程、沈黙が支配する車を走らせていたが、異変は徐々にあった。視界が霧がかってきた。まるで白いもやは、やがて視界を真っ白に染め上げる程濃厚になった。
―――濃霧だ。
しかもこんな時季に。まさに異常気象だな。
反対車線を走る車のヘッドライトが頼りなげに霧の中浮かび上がっている。流石に危険だ。
「キリ、車を路肩に停めろ、危ない」
俺が指示するとキリは言われた通り大人しく車を路肩に寄せた。
「この時季に霧?」とキリも不思議そうに首を捻る。
濃霧のせいで思わぬ足止めを食らったが、ようやくいつものペースを取り戻せた気がした。
この濃霧の中、やはり足止めを食らう車は少なくないようだ。白い靄の中ハザードランプの光があちこちでチカチカ点滅している。
「はぁ、ついてない」キリはハンドルに突っ伏し小さくため息。だけどすぐに気を取り直したように
「ねぇねぇ♪こうゆう状況だとアレしたくない?」とワクワクと目を輝かせるキリ。
アレ??って何だ、と聞くのは愚問だ。
前言撤回だ、キリは俺が裏切ったことを少しも疑った様子ではない。
「アレはアレよ、ほらっ『怪談話』」とキリは楽しそうに人差し指を上げ
俺は目を細めた。
「お前が怪談話を好きだとは、初めて知ったが」
「だって初めて言ったもの。実はホラー映画とか大好き」
あそ。
「乗り気じゃないのね、あ!もしかして翔は苦手?」とキリは意地悪そうにニヤリ。
「苦手じゃないが好きでもない。そもそも幽霊なんて存在しない」
「翔はそう言うと思ってたわ。じゃぁまず私からね♪」
キリ、人の話を聞け。
「これは私が体験したこわ~い!は・な・し」と前置いて「ある夜愛する男のマンションを訪ねていったら、知らない女がその男の部屋に入っていったの」
……
俺は目を開いた。
「時間にして1時間ちょいって感じね。びみょ~~な時間よね♪でも私は信じてたわ。愛する人は私を裏切らないって。でも―――」
―――過信し過ぎてたわ。
彼女は声のトーンを一段も二段も低めて、最後にこう締めくくった。