お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 相変わらず彼女はお見合いに関して何も言わない。
 副社長になる前はそれなりに女性との付き合いもあった蓮だから口に出さなくとも異性が異性の気を引く仕草など大体はお見通しであるという自負があるが、彼女からはそういったものも一切感じられなかった。
 毎日持ってくるコーヒーは丁寧に入れられているとわかるほど美味しかった。けれど、それにお礼を言うまもなく彼女はそそくさと部屋を出て行く。
 意味深な視線を向けられるどころかろくに目も合わない始末だ。それは彼女が入社してからの蓮の彼女に対する態度を鑑みると当然といえるだろう。わざとだとはいえ、蓮のほうがもっとひどい態度だったのだから。
 けれど少し前に偶然秘書室で一条と談笑している彼女を目撃してから、蓮はまたイライラに悩まされてる。
 なぜだか…本当になぜだかわからないのだけれど、彼女のそのようなところを見たくないと思ったのだ。自分には目も合わせない彼女が他の社員に笑顔を向けているところなど…。
 エレベーターのほうからこっちに向かって歩いてくる真帆は両手で前が見えるギリギリの高さまでコピー用紙を抱えていた。
 一番上に財布を乗せているところを見ると昼休みに社食へ行ってきたのだろう。そして帰りに総務に寄って備品をもらって来たに違いない。
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