お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
「副社長、法務部長からの会議資料が届いておりますので来週の会議までに目を通しておいて下さい。…入江さんはそれまでにこれを10部刷って製本してくれる?」

「はい」

 一条が資料の束を蓮と真帆にそれぞれ渡す。
 蓮がその資料を見て舌打ちをした。

「いつものことながら、わかりにくい資料だな」

 法務課からの資料は『不動産取引に絡む昨今の法改正について自社での対応を検討する』という内容だった。たしかに内容もさることながら、資料自体がひどくわかりにくい。
 まがりなりにも大学で法律を勉強した過去があり法律事務の経験を積んだ真帆でもわかりにくいと感じるのだから、あくまでも経営のプロであり法律の専門家ではない蓮には尚更そう感じるはずだ。
 そうは言っても彼がこの資料の内容を理解しないまま会議に臨むはずもない。徹夜をしてでも専門書をひいて必ず会議に間に合わせることを真帆は知っている。
 真帆の蓮に対する気持ちはまだ複雑だけれど、彼が仕事には少しも手を抜かない優秀な経営者であることは認めないわけにはいかない。
 けれど沢山の案件を抱える彼だからこそ、このわかりにくい資料を読み込むだけに多くの時間を使うのは勿体ないような気がして思わず真帆は口を開いた。
< 78 / 283 >

この作品をシェア

pagetop