琥珀色の夕焼け、空を映した青
「フェリシア姫は、レシュノルティアへ嫁ぐつもりはないのですか」
 じっと私を見つめて、そんな事を尋ねてくる。どうしたの、突然。
「嫁ぐつもりがないというより、そんな事あり得ないでしょ」
 正直に答えると、涼し気な目がほんの少し険しくなった。
「では、何故レシュノルティアに?」
「大臣の命令で。レイヴァンズの国益の為に、他国との繋がりを作りたいから行ってこいって。絶対無理って言ったんだけどね」
「レイヴァンズにとってレシュノルティアは役不足だ、と姫はお考えなのですか」
 ぶんぶん首を振って否定する。
「とんでもない。むしろ大大歓迎よ。だけど、自国の益の為に結婚してくださいなんて、王太子様に対して失礼だと思わない?」
「王族の結婚なんてそんなものでしょう。相手にもこちらにも、それなりに政治的な思惑はある。お互い様です」
「そうかもしれないけれど……」
 冷静な意見に不服で口を尖らせる私が可笑しかったのか、執事さんはほんの少し笑んだ。
「フェリシア姫は純粋なお方だ」
「それ、褒めてるの?」
 皮肉かと思って聞き返した問いを笑みではぐらかし、執事さんは私を真っ直ぐに見て言った。
「姫は、レシュノルティア王家に嫁ぐのは嫌ですか」
「嫌ではないわ。聞き及ぶ限りでは、王太子様は私の理想の人だし。もし嫁に来てくれって言われたら、喜んで王太子様に尽くすつもりよ。だけどそんな事――」
「では、プロポーズしても差し支えありませんね」
「…………は?」
 一瞬、天地が止まった。
『プロポーズしても差し支えありませんね』
 何それ。どういう事?
 執事さんの質問の意図が分からず、私はぽかんと青い瞳を見つめた。トクトクと早まる鼓動。
「執事さんが……私に?」
 震え声の質問には答えず、私の手を握ったまま執事さんは立ち上がった。
「一緒に来てください。フロアへ戻る前に、両親に紹介したい」



「――ちょっ、ちょっと待ってよ! 一体何なの?」
 ぐいぐい引っ張られて連れて行かれたのは、舞踏会場を越えた奥の部屋。私の声に気づいて、会場からコウが追って来てくれる。
「どうしました、姫様!」
「コウ、」
 どういう展開なのか分からず泣きそうになってる私を連れて、執事さんは奥の部屋に入っていった。遅れて付いてきたコウが、ぴたりと入口で立ち止まる。
「あら、ナイジェル。さっきシェリフが探しに来たわよ。主役のくせにどこに雲隠れしてるんだ、って」
 部屋の中に居たのは、おっとりと笑う、執事さんによく似た女の人。隣には金髪の男性、背後に居並ぶのは如何にも重鎮って感じのおじさん達。
 って、ちょっと待って。『ナイジェル』って、確か――
「父上、母上」
 ほんのり頬を上気させた執事さんは、私の手を引いて二人の前まで進み出、こう言った。
「やっと、一緒に生きて行きたいと思える女性に出会いました」
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