琥珀色の夕焼け、空を映した青
「体の調子は?」
「大分良いわ。今日の診察で、次の公務には出席しても大丈夫でしょうって言われたの」
 ユーリを妊娠していた時、子宮の一部が捻れて病んでしまい、出産と同時に手術を受けた。その分回復が遅れ、その間お義母様が代理を務めてくださった。
「無理はするなよ」
「うん、ありがとう」
 どんな言葉よりも雄弁な優しい腕。ナイジェルは口調が無愛想で言葉数が少ないけれど、私をとても大事にしてくれている。
 初めての子であるユーリが生まれたのは、結婚して十年目の今年。
 ナイジェルが言っていた通り、レシュノルティアの王宮は慣習や規則を物凄く重んじる所だった。世継ぎを期待する周囲の目は年月の経過と共に重石の様な圧力となり、何度も泣かされた。
『世継ぎを生むのが妃殿下の務めなのに』
『不妊症の女性を迎えてしまうとは不幸な事だ』
『まさかフェリシア様、夜のお務めを放棄なさってるのかしら』
『きっと陛下に飽きられたのよ。田舎臭いものね、あの方』
 あからさまに揶揄する人もいる中、お義母様とお義父様は優しかった。一言も責めず、悩む私を慰めてくれた。
『大丈夫よ、フェリシア。私も長らく子どもが出来なくて悩んだけれど、今では四人の子持ちだもの。焦ることはないわ』
 不思議なもので、優しくされると嬉しい反面、かえって気負ってしまう事がある。私の場合はそうだった。気負って、悩んで、ナイジェルと喧嘩になった事もあった。
 何としても子どもを生まないと。早く世継ぎを起こさないと。周りの期待に応えないと――
 悩み過ぎてノイローゼ気味になった私は子宮の病に罹り、危うく一生子を宿せない身体になるところだった。
『もう良いよ。ナイジェルだって、子どもを産めない女は要らないでしょ』
 病室で離縁を口にして、ナイジェルに一喝された。
『勘違いするな。僕は君を伴侶として選んだ。子どもを生ませる道具としてじゃ無い!』
 きつい言い方をされたけれど、本気で言ってくれてるのが伝わって、ナイジェルの腕の中で子供みたいに大泣きした。
『シア姉様は真面目過ぎるんだよ。母様と違って、兄様は一人っ子じゃ無い。ちゃんと後継にリクニスが居るんだし、悩む事無いじゃん』
『でも……』
『どんなに頑張ったって、言いたい人はあだこだ言うんだから。言いたいように言わせとけばいいんだって。それより、身体が治ったら純粋に兄様との夜を楽しんじゃえば良いよ。あれこれ考えずに愛されてみたら、意外とすんなり王太子殿下がおいでになるかもよ?』
 開けっぴろげな弟君の言葉にも救われた。彼自身、ある企みに巻き込まれて止むを得ず王位継承権第二位の立場を放棄した事で、無い事無い事囁かれている人だった。

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