琥珀色の夕焼け、空を映した青


 ボロは出なかったが、戦線離脱は早かった。
「ったぁ……」
 舞踏会場を抜け出し、人気の無い廊下まで来て、私はしゃがみこんだ。ドレスの裾をひらりとめくり、足元を確認する。
「あーあー」
 ヒールの中は血だらけ。慣れない靴に連日の特訓のせいもあり、靴擦れがひどい。痛くて痛くて我慢出来ず、三人の紳士と踊った後そそくさと逃げてきた。コウに一言言おうかと思ったけれど、付き人集団からかなり離れた場所に居たので何も言わずにそのまま出て来た。
 さて、どうしようかな。
 とりあえず、窮屈な靴を脱いだ。解放感に、ほっと息をつく。でも、素足で歩いて廊下に血を付けるのも申し訳ない。どうしたものかと思案していると――
「何をしている」
「みぎゃっ」
 突然頭上から降ってきた声に奇声を発してしまい、慌てて口を塞いだ。恐る恐る見上げると、燕尾服の美男子が背後に立っている。
 整えられた金髪。涼しげな目元。海を映した空みたいな、綺麗な青い瞳。
 ……格好良い。
 思わずぽーっと呆けて見つめてしまった。心臓が勝手にぱたぱた走り出す。こんな事言うとはしたないかもしれないけれど、かなり好みの顔だ。
「靴擦れか」
 さっと膝をついて足を取られた。一つ一つの動作すら綺麗で見惚れてしまう。
 こんな所に居るってことは、王宮の使用人よね。格好からすると、多分執事さんだ。それも結構偉い方の。
「これはひどいな」
「お恥ずかしながら、ヒールに慣れてないんです。執事さん、どこか部屋を貸してくださいませんか?」
 一瞬、イケメン執事さんはぽかんと口を開けた。そうよね、普通のお姫様はこんな事言わないし、こんな格好で廊下に居たりしないわよね。
「あ、ほんの少しで良いんです。ハンカチ巻いとけば何とかなると思うので」
 ややあってぱくんと口を閉じ、執事さんは静かに頷いて手を差し出した。
「お手を」
「大丈夫です、一人で歩けます」
 涼しげな目がきゅっと尖ったと思うと、
「ご無礼を」
 そう言って、執事さんはいきなり私を抱え上げた。
「ちょ、まっ、」
「手当て致します。お望みであれば、痛みが止むまでお休みになられると良い」
 うわあ、本物のお姫様抱っこだ。至近距離にある端正な横顔。ううう、早く部屋に着かないと心臓が持たない。

< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop