琥珀色の夕焼け、空を映した青
執事さんは、海の見える部屋を貸してくれた。ほのかに潮の匂いがする心地よい夜風と、誰もいない空間にほっとした。会場を離れたのは靴擦れのせいだけど、逃げ出したい気持ちは少なからずあったから。
誰か呼ぶのだろうと思ったら、執事さん自ら手当てしてくれた。何気に器用な人だ。
「レシュノルティアは素敵な所ですね」
黙々と包帯を巻く執事さんに話しかけてみた。
「そうですか」
無愛想なくらい素っ気ない反応。
「私の国は山ばかりだから。海が見える所って憧れてたんです」
「そうですか」
再び素っ気ない相槌。
「それに、レシュノルティアの女王陛下は素敵な方なのでしょう? この国の経済が安定しているのは、女王陛下の采配が素晴らしいからだと聞いています。それに、王太子様も若くして君主の力量があると認められているとか。羨ましいわ」
「……そうですか?」
この度は疑問系。反応があったのが嬉しいついでに、溜息ついて思わず愚痴ってしまう。
「本当、うちの父様に爪の垢煎じて飲ませたいくらい。父様、悪い人では無いんだけど、頼りなさすぎて。今じゃ単なるお飾りなの」
「フェリシア様は確か、レイヴァンズ国の第一王女でしたね」
手当てを終えた執事さんは確認するように尋ねる。
「そう。さすがは大国の執事さんね。取るに足りない客人の事まで把握してるなんて」
ノックが聞こえ、メイドさんが飲み物を持って来てくれた。
「どうぞ」
「ありがとう。遠慮なくいただきます」
香りの良い紅茶。ゆるゆると心が解れていく。痛みと緊張から解放されたからか、舞踏会場に戻りたくないからか、執事さんとお喋りしたくなった。