琥珀色の夕焼け、空を映した青

「ねえ、王太子様ってどんな方?」
「……気になりますか」
「そりゃ勿論。嫁候補として送り出されては来たけど、私なんかが王太子様とお話出来るはずないもの」
「そうでしょうか」
「そうよ。だって、あんなに素敵なお姫様方を掻き分けて王太子様のお目に留まろうなんて、畏れ多いわ。私、その辺の分はわきまえてるつもり」
 紅茶を、一口。ほう、と息を一つついて続ける。
「私、王女なんて名ばかりだもの。普段は農場経営して、使用人にささやかなボーナス出したり、養護院に作物寄贈したり」
「農場経営……」
「そう。おかげで手はマメだらけ」
 手袋脱いで手の平を見せた。
「労働者の手だ」
「そうよ。私、トラクターにも乗れるの」
 自慢気に言った後で、溜息と共に本音が零れる。
「本当は、王族に生まれた者としてもっと違う形で国に尽くしたいのだけれど。出来る事がそれ位しか思いつかなくて」
「…………」
 困惑気味な執事さんに、自嘲気味に笑って肩を竦める。
「一国の姫が農場経営なんて変でしょう? 普通じゃないのは分かってる。でも、お飾りでいるのは嫌だったの。ほんの少しでもいい、誰かの役に立ちたいの」
 執事さんが黙って、しかも真面目に聞いてくれるので、普段お腹に溜めてた思いがつらつらと言葉になって溢れてきた。
「今のレイヴァンズは、主にカーマストラ大臣が実権を握っていてね。力も才能もある人なのよ。国益の為に働いてくれてるのも確か。でも、国民に――特に弱者に対する彼の態度が納得出来ない」
 思い出すたび、怒りに似た悔しさが込み上げてくる。助けを求めたのに虐待された、コウの悲鳴。動けなくなった彼を見下す、大臣の冷たい眼。
『次は無い。よく覚えておけ、賤民』
『教えてよ、姫様。あんたら偉い人達にとって、俺らは家畜か何かか?』
『歳入と支出を詳しく知りたい? おやおや、可愛らしいお姫様が政に意見なさるおつもりですかな』
『お城で大人しくしておいでなさい。お姫様が考えているほど、政は甘く無いのですから』
 悔しくて唇を噛む。両手をぐっと握った。
「分かってるの。私は女だし、若造だし、口出しされるのは面白く無いでしょう。だけど……」
 執事さんは表情を変えないまま先を促す。
「だけど?」
「せめて、苦しむ人や貧しい人を一人でも減らせたら。その為に何か出来たら……そう願うのは間違ってる?」
 思わず声が震えてしまった。執事さんの青い目が、じっと私を見つめている。

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