続・闇色のシンデレラ
「あ、若?……壱華さん?」



ちょうど産婦人科を出た辺りのロビーにて。



「剛さん」



見知った声がしたので振り返ると、剛さんがいた。


こんなところで偶然。


どうしたんですかと聞こうとして、彼は撃たれてつい最近まで入院していたという事実を思い出し、口をつぐんだ。


厳しい面構えの剛さんは手前まで来ると、わたしの顔を見て、張り詰めた表情を崩した。




「そんな顔しないでください。ちょいと検診に来ただけっすよ」

「……お怪我、どうですか?」

「はい、おかげさまで。経過は良好だそうっす」

「よかった」



ぽん、と自分の腹を叩いて大丈夫だと知らせる彼。




「またお前はそうやって、俺以外に愛想振りまく……」



いろいろあって不機嫌な旦那様は、剛さんに嫉妬してゆるりと腰を抱く。



「ところでお2人そろって……どうしたんすか」



こんな人の多いところでロビーで!なんて焦ったけど、あの帝王が放してくれるはずもなく。


剛さんの問いに志勇は背後に向けて親指を突き立て、強く腰を引き寄せ、ニヤリと笑ってみせた。



「どっから出てきたかよく見ろ」



剛さんがなんだと顔を覗かせるとそこは───産婦人科。


呆然と見つめる彼は数秒後、これでもかってくらい目を開いた。


剛さん、そんなに目を大きく広げられたの!?


申し訳ないけど、決して目の大きくない剛さんが目をまん丸にしたからびっくりしてしまった。




「お、おめでとうございます!」



すると辺りに響くような大きな声と、残像が見えるようなスピードで90度のお辞儀。



「ひぃ、こんなところでやめてください!」



結局志勇のせいで病院でもたくさんの人の目に晒されてしまったため、わたしは志勇を引っ張って逃げるように病院から退散。


ちなみにこの数時間後には号外のように、荒瀬組に懐妊の報告が知れ渡っていた。
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