続・闇色のシンデレラ
───チャプ
ゆらゆら揺れる水面。立ち上る蒸気。
濡れて触れ合う素肌。
「いつまで拗ねてんだよ、壱華」
なんだか色っぽい、志勇の声が後ろから吐息と共にくぐもってこだまする。
ここはバスルーム。浴槽の中でふたりきり。……あ、今はお腹の子を合わせて3人だ。
最近はこうして、志勇と一緒に入浴することが日常になっている。
「だってあんな大袈裟に……お、お赤飯まで炊かなくてもいいのに」
普段は他愛のない話をしてまったりしてるんだけど、今日は少し事情が違っていて。
懐妊の祝いだと本家の人にもてはやされたされたことが原因で、ぶつぶつ文句を言っていたりする。
「めでたいことだ。嬉しくねえのか?」
「嬉しいよ。楽しみだよ。ここに赤ちゃんがいるなんて、すごいなあって思う。
でも……怖い」
「怖い?」
「家族ができるってことは、守るものが増えるってことでしょ?
極山との抗争が終わって、わたしを交換条件に西雲と誓約をして、いろんなことが変わって。
そんなドタバタしてる時期に今度はわたしが妊娠して……よかったのかな」
不安を漏らすと、志勇の大きな手が後ろからお腹を包み込んでくれる。
左手にはシンプルなデザインの結婚指輪がきらり。
その優しさにあふれた手に自分の手のひらを重ねた。
「ひとりで悩むな。ここに新しい命が宿ったのは、俺とお前が存在してるからこそだ。
女が妊娠してる間、男は知らねえ顔してるなんて言うけど、俺にも協力させろよ。
妊娠中の妻のサポートは子育ての一環だ」
志勇はいつでもそう。こんなにも簡単に心のわだかまりを氷解させてしまう。
でもちょっとだけ、引っかかってしまったことが。
「泣く子も黙る若頭が子育て……?」
「あ?コラ、笑いすぎだ」
笑うなと言われたから声を殺して含み笑いをすると、ゆらゆらと水面に幸せそうな顔が浮かんでいた。