エレベーター
影の手がまばたきも許さない速さであたしの足を掴んでいたのだ。


そのまま壁へ向けてグイッと引きずられる。


一瞬影の中に引きずり込まれてしまうのではないかという恐怖に悲鳴を上げた。


しかし、違った。


影はあたしの足を掴んで制止したのだ。


しっかりと掴まれていて振り払う事ができない。


しかし、影も引きずり込む気はないようだ。


一体、なにがしたいの!?


恐怖で意識が飛んでしまいそうになる中、あたしは必死で手を伸ばした。


このエレベーターは車いすでも使いやすいよう、腰辺りにもボタンがあるのだ。


これを押したってエレベーターに変化がないことは理解していた。


けれど、SOSのボタンを押さずにはいられなかった。


「誰か……助けて!!」


悲痛な声を上げて懸命にボタンに手を伸ばす。


そして指先が、それに触れた。
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