クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「ただいま」

 玄関から聞こえた声に、ぱっと立ち上がった。
 足早に出迎えると、既にスーツを着崩した夏久さんと鉢合わせる。

(いつも帰ってくる頃には着崩してる。会社にいるときはちゃんとしてるんだろうけど……たまにはそういう姿を見せてほしい、なんて)

 ひそかな欲求は隠し、目の前で立ち止まった夏久さんを見上げる。

「お帰りなさい」
「ちゃんと家にいてなによりだ。君のことだから、外で待っているんじゃないかと」
「止められていなかったらそうしていましたよ」
「止めておいて本当によかった」

 それだけ言うと、夏久さんは自分の部屋へ消えていった。
 閉ざされたドアの向こうから衣擦れが聞こえてくる。
 一枚隔てただけの先で夏久さんが着替えをしていると思うと、先ほどとは違う意味でなんだか落ち着かない。

(ここで待っていたらちょっと変かな? 先に靴を履いておいた方がいい?)

 次にどう動くべきか迷っているうちに、着替えを済ませた夏久さんが部屋から出てきた。
 ドアにぶつかりかけた私を見て目を丸くしたかと思うと、すぐ微妙な顔をする。
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