クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「悪い。当たらなかった……よな」
「大丈夫です。すみません、変なところにいて」
「……本当にな。なにをしていたんだ?」
「ええと……なにも」
 それしか言えず、気まずい空気を感じる。
「準備は? もう、すぐに出られるのか?」
「あ、はい。いつでも大丈夫です」
「じゃあ、行こうか」
「はい」

 帰ってきてすぐに出かけてもいいのか――と喉までこみ上げた言葉を飲み込んでしまった。
 一緒に出掛けることになったのは気まぐれかもしれない。どこで気が変わって、また線を引かれるかわからない。
 それを思うと「仕事終わりで疲れているだろうし、少し休んでからでも大丈夫」とは言えなかった。
 そんなわがままで自分勝手な自分に少し落ち込む。

「靴はひとりで履けるのか?」

 先に靴を履き終えた夏久さんが私を振り返る。
 慌てて顔を上げ、頷いた。
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