クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「なんとなくお店を見て、気が向いたら本屋にも寄ります」
「どんな本を読むんだ?」
「料理雑誌はチェックしちゃいます。あとはミステリーとか」
「意外だな」
「でもたぶん、あんまり向いてないんだと思います。この人が絶対犯人だろうって推理しながら読み進めても、当たったためしがないですから」
「君がミステリーに向かないのはなんとなくわかる気がする」
「えっ、どういう意味ですか?」

 夏久さんは少し笑っただけで答えてくれなかった。
 からかわれているように思えたけれど、笑ってくれたからよしとする。

「夏久さんはどんな本を読むんですか」
「最近はあまり読まないな。仕事に関係しそうなものには目を通すくらいで」
「……そういえば私、夏久さんがなんの会社の社長か知りません」
「普通のIT企業だよ」

 もっと詳しく聞いてみたかったのに、そこで話を打ち切られてしまう。もう一度突っ込んで聞いてみるかどうか悩んで、今日の目的は散歩だということを思い出した。
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