クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 その手がどんなふうに触れて撫でてくれるのか、私はちよしくんよりも知っている。
 そんなふうに思ってしまった自分に気付き、むなしくなった。

(私の方がちよしくんに嫉妬するなんて)

 気持ちよさそうなちよしくんに感じるのは、羨望。夏久さんはもう私にそんな触れ方をしない。
 もや、とした気持ちが芽生える。
 私がなにを思っているかも知らず、ふたりは話を続けた。

「それにしても素敵な旦那様ね。一緒にお散歩をしてくれるなんて」
「ありがとうございます。……照れ臭いな」

 そう言った夏久さんの照れた様子は、あながち演技でもなさそうだった。
 きゅんと胸が疼いたけれど、私たちの関係が見た目通りのものではないことに変わりはない。
 夏久さんはまたちよしくんのお腹を撫でると、私を労わるようにそっと腰を抱いてきた。

「すみません、散歩中に邪魔してしまって」
「いいのよ。こっちこそせっかくふたりでいるのにごめんなさいね」
「いえいえ。それじゃあ……ちよしくん、またな」
「ばいばい、ちよしくん」

 ちよしくんとお母さんに手を振って、反対方向へ歩き出す。
 さっきはあんなに賑やかだったのに、急に沈黙が訪れた。
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