クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「できれば……もう少し優しくしてくれると嬉しいのはたしかです」
「君に優しくしたとして、代わりになにをくれるんだ。……君が俺に与えられるものなんてないだろ」

 突き放すような言い方なのに、悲しいほど穏やかで優しい口調だった。
 つきんと胸が痛んで、また視線を下に向ける。

(あげられるものがあるんだとしたら、この気持ちだけ)

 私がそう思ったところで、夏久さんはそれを望んでいない。わかっていても、受け入れてくれればと微かな希望を抱いてしまうあたり、私は救いようがないのだろう。

「ほかにもさっきのような知り合いがいるのか?」

 空気が変わったことに気付いたからか、夏久さんが話題を変えてくれる。そのことにほっとしながら、再び顔を上げた。

「知り合いというほどじゃないかもしれませんが、声をかけてくれる人はたまにいますね。毎日同じような時間に外へ出ると、なんとなく顔ぶれも同じなんです」
「世の中には俺が思っているより、散歩を日課にしている人が多いんだな」
「そういうことなのかもしれません」
「ほかにどんな人がいるんだ?」

 ふと夏久さんの方を見る。

(いつも、こんなにたくさん質問してきたっけ)
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