クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「話した方が……よかったですか?」

 おそるおそる聞いてみると、夏久さんは額に手を当てたままゆっくり首を縦に振った。

「……なにかあったらどうするつもりなんだ」
「ごめんなさい。でも、なにもなかったんです。ちょっと足に当たっただけで」
「なにか起きているじゃないか」

 夏久さんの視線が私の足に移ったのが見えた。
 件の話は結構前のことになる。ボールが当たった痕は残っていない。まず、痕が残るほどの勢いでもなかったのだけれど。

「今度からは些細なことでも教えてくれ」
「……はい」

 少し、反応が遅れた。
 教えたとして、夏久さんがどのように聞いてくれるのか想像ができなかった。

「それからどうなったんだ。ちゃんと謝ってもらったのか?」
「はい。一斉に駆け寄ってきて、真っ青な顔で謝ってくれましたよ。いい子たちでした」
「……そうか」
「だから、おやつにしようと思っていたたい焼きを分けてあげたんです。一緒に食べて、仲良くなりました。いつかこの子が生まれたら遊び相手になってもらう約束をして……」

 そっとお腹に触れる。私と夏久さんの赤ちゃんは、両親の複雑な関係も知らずすくすく育っていた。
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