クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……大したことはしてないよ」
「でも、お礼を言いたかったんです」

 再び並んで歩き出すと、これまでとは違う空気が私たちを包み込んだような気がした。
 こういうことがあるから、私は諦めきれない。遊園地へ連れて行ってくれることもデートだと思いたいし、嫌な顔をしながらも付き合ってくれる以上、夏久さんに期待していいのではないかと淡い希望を抱いてしまう。

(夏久さんがずるいのか、私が簡単に心を動かされすぎるのか、どっちなんだろう)

 本当は今も手を繋いで歩きたいけれど、言わずに黙って隣を歩く。

「このまま本当に隣駅まで行く気か?」
「……あ、いえ。すみません、うっかりしていました」

 目的は私が普段している散歩コースを案内すること。さすがに隣駅まで歩くほど、普段からバリバリ歩き回っているわけではない。

「いつもはもう少し前で引き返します。でも今日は違う道から帰ってみたいです」
「迷子になっても知らないぞ」
「そのときは夏久さんが案内してくれますか?」
「車を呼んだ方が早い状況じゃない限りはな」

 これ以上進むのはやめ、来た道を引き返す。
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