クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 途中、いつも散歩の際に引き返す目印として覚えていた自動販売機の前を通りがかった。
 そこから道が二本に分かれており、片方はなだらかで人通りの多い坂、もう片方は急な階段と両極端になっている。

「このあたりでいつもは帰るんです。こっちの坂から。駅を通らなくても家に着くので、近道なんですよ」
「……ってことは、帰ってみたい違う道はそっちの階段か」
「……やっぱりだめですか?」

 ひとりだったら、絶対に選ばない道だった。けれど、階段の下を見ると道の両脇に花が咲き乱れていて目に楽しい。
 あれをもっと間近で見てみたかった。あの中を歩いて家に帰ってみたかった。
 散歩コースが確立されても、小さな楽しみを心は求め続けていた。

「今日は夏久さんがいるから大丈夫かと思ったんです。あそこ、花を見てみたくて……」
「ひとりで行こうとしなかっただけ、君にしてはマシな方かもしれないな……」

 呆れたように言ったかと思うと、突然手を差し出される。
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