クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 それから一時間と少しは経っただろうか。
 せっかくバーに来たのにお茶を飲んで、なんとなく身の上話をする。
 そんな中でふと彼が遠い目をした。

「親離れできないってきついよな」
「あなたも経験があるんですか?」
「それなりに。育ちがよさそうだろ、俺」
「うーん……そう……ですね……?」

 真面目な話をしたかと思えば、重くなる前に冗談を言って空気を変えてくれる。
 緩やかに、それでいてあっという間に過ぎていく時間が心地よくて、いつまでもこんなふうに話していたくなった。

(でも、きっと今日別れたらそれでおしまい)

 そう思うと、つきんと胸が痛む。
 この人が楽しそうに話すところを、優しく笑うところを、もっと見ていたい。

「あの」
「ん?」
「お名前……聞いてもいいですか?」
「……普通だったら、だめだって言うところだな」
「あっ、じゃあ大丈夫――」
一条夏久(いちじょうなつひさ)

 さらりと告げられて、一瞬名前だと認識できなかった。
 一拍置いて自分の中に落とし込み、ふわっと胸の内が温かくなる。
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