クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「もうこんな時間だったんですね……!」
 いい加減、父が心配する頃だろう。帰る前に連絡を入れておいた方がいいかもしれない。
「ん? まだ十時だぞ」
「でもそろそろ帰らなくちゃ」
「そんなに終電が早いのか?」
「……あ」

 きょとんとした目で見つめられ、思考停止する。
 そして、そそくさともう一度椅子に座った。

「……今日から門限を気にしなくていいんだって忘れてました」

 自分で夏久さんにも言ったはずだ。それなのに、しみついた癖というのは恐ろしい。
 しかもかなり焦ってしまった。恥ずかしくてたまらない――。

「……っぷ、はは」
「わっ、笑わないでください!」

 たまらずこぼれてしまった――というのが伝わってくるくらい、心から楽しそうに笑われる。
 ますます恥ずかしさが込み上げた。顔から火が出るというのはこういうことを言うのだろう。

「そんなに笑うことじゃないです!」
「わかってる。わかってるんだが、あんまり焦った顔をしてたから」
「もう笑わないでください……!」

 今まで見ていた表情はきっと作られたものだった。そう感じてしまうくらい、あまりにも屈託ない無邪気な笑みが私の視線を捉えて離さない。
 恥ずかしさと、ちょっぴりの悔しさはある。でも、それ以上になんて気持ちのいい笑い方だろうと心が動いた。
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