クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……俺も素直にそう言えるような人生を歩みたかったな」

 ぽつりとこぼした言葉が、なぜか耳に残る。
 ふと、ここまで話していた中で夏久さんの話をほとんど聞いていないことに気が付いた。
 正確には、夏久さん自身のこと、である。

「聞きますよ、愚痴。私の話もたくさん聞いてもらったので」
「愚痴があるわけじゃないんだ。反抗期みたいなものだよ。……っと、グラスが空だな。またお茶でいいか?」
「あ……はい」

 空のグラスをテーブルの端に寄せながら視線を下げる。
 夏久さんは明るい人だし、私の話も親切に聞いてくれた。
 ほんの一時間少しの関係とはいえ、完全な初対面よりは仲良くなれたのだと思っていたけれど、やはり線は引かれているらしい。
 それがどうしてこんなに寂しく感じるのか、自分でもわからない。

(自分が心を許した分、同じものを返してほしかったのかも。……こういうところが世間知らずというか、人に慣れてないというか……呆れられてもしょうがないな)

 顔を上げる気になれず視線を滑らせる。
 初任給で買った腕時計が視界に入り、はっと思わず立ち上がってしまった。
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