クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「え……」
「言い方がきつくなったから。その……俺のいないところで危なっかしいことをしてると知ったら……ちょっと焦ったというか……」
「料理しかしてないです、けど」
「火のついた鍋に向かって倒れたらどうする? うっかり包丁で怪我をしたら? ……君ひとりの身体じゃないんだぞ」

 ぎこちなく夏久さんの腕が伸びてくる。
 思わず身をこわばらせると、恐る恐るといった様子で抱き締められた。

「俺に気を遣ってなにかしようとしなくていい。安全第一でおとなしくしていてくれ」
「は……はい」
「それと……」

 夏久さんが言いよどむ。

「……シチュー、おいしかったよ」

(えっ……)

 顔を上げて夏久さんを見ようとしたけれど、なぜかぎゅっと頭を押さえつけられる。
 あの夜以来、初めての触れ合いだった。
 感じたぬくもりも安心感もまったく変わっていなくて、こわごわ夏久さんの背中に腕を回す。
 ゆっくり深呼吸すれば、ぎゅっと胸が苦しくなるような夏久さんの香りがした。

「おいしかったならよかったです。でも……また作らない方がいいんですよね?」
「ひとりでいるときには、だな」

(じゃあ、夏久さんがいるときならいい?)

 聞く前に腕の中から解放される。
 ふたりの心が通じ合ったと思ったあのときと同じく、しばらく見つめ合ってしまった。
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