クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「全部……ご飯も薬の味がするんです。おかしいですよね、サプリに味はないのに……。……ごめんなさい」

 うつむきながら言うと、かたんと音がした。
 席を立った夏久さんが私のもとまでやってきて、椅子の側に膝をつく。
 そして私の顔を覗き込んだ。

「雪乃さん」

(……あ)

 とても久し振りに名前を呼ばれて顔を上げてしまう。
 私を心配そうに見上げる夏久さんと目が合ってしまった。

「だったら、君が食べたいものを用意しよう。なにが食べたい?」

 夏久さんは私を見上げたまま優しく問う。
 私が心惹かれた人の姿がそこにあった。
 泣きそうになってまた唇を噛み締めると、そっと手を握られる。

「夕飯になるようなものじゃなくてもいい。なにかないのか?」

 本当に優しく、壊れ物を扱うように尋ねられる。
 感じていた苦しさをこくりと飲み込んで、私も夏久さんの手を軽く握り返した。

「いちご……いちごのタルトが食べたいです」
「いちごタルト?」
「いちごだけじゃなくてもいいです。フルーツいっぱいの……」
「……わかった」

 握ってくれていた手がほどける。
 夏久さんは立ち上がると、ソファの背にかけてあったジャケットを取った。

「買ってくる」
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