クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「ええと……いただきます」
「うん」

 夏久さんは食べないらしい。
 私が口に運ぶのを心配そうにじっと見てくる。

(見られてると落ち着かないんだけど……)

 あんなに食事に対して気が進まなかったのに、キラキラしたフルーツタルトは私の心を甘くくすぐった。
 妊娠したからか、さっぱりしたものを求めていたのもあって、ひと口食べてみる。

「おいしい……!」

 思わず声が出てしまった。
 はっと口を押さえると、私を見つめていた夏久さんが安心したように笑っている。

「よかった」

(……っ)

 呟いた一言はタルトよりも甘い。
 きゅう、と胸が締め付けられるのを感じながら、もうひと口運んだ。

「すごくおいしいです。どこのお店で買ったんですか?」
「駅前の。季節限定らしいぞ」
「駅まで探しに行ってくれたんですね……」
「しょうがないだろ。近くにケーキ屋がなかったんだ」

 たしかに駅まで行けば併設された施設の中や、近くのデパート、スーパーにケーキ屋がある。個人経営の店もいくつかあったはずだ。
 それをすべて回ってきてくれたのだろう。仕事を終えて疲れているにもかかわらず。妻だと認めていない女のために。

(……どうしよう、嬉しい)

 つややかないちごを口に運んだ瞬間、ほろ、と涙が落ちた。
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