クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「雪乃さん? どうした?」

 慌てたように夏久さんが私の顔を覗き込む。
 なにも言えなくて、首を横に振った。

「おいしくて……」
「泣くほどのことじゃ……。そんなに好きなら取り寄せようか?」
「これ……全部食べてからじゃないと……腐っちゃいます……」
「ああ、うん。たしかにそうだな」

 ケーキの賞味期限は短い。はたして腐る前に食べきれるのかどうか怪しい。
 でも、全部食べたかった。
 食べたい、と今は思えた。

「……あ」

 いつの間にか残りひと欠片になったタルトを見つめ、手を止める。

「食べ終わったら、またサプリを飲まなきゃだめですよね……?」
「いや、もういい」

 夏久さんが即答する。

「栄養の代わりにストレスを溜めてちゃ意味がない。貧血気味だと先生も言っていたし、鉄分だけは摂ってくれると嬉しいが」
「……はい」
「これからは……俺が帰る前に食べたいものを連絡してくれ。買って帰るから」
「え……」
「栄養より、君の希望を叶えるべきだったんだろう。たしかにこれじゃ薬漬けだ」

 顔を上げると、目尻に残っていた涙が落ちていった。
 濡れた頬を夏久さんの指が滑る。

「ごめんな」
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