クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 まっすぐ見つめて言われると、もう止まったと思った涙がまた溢れてしまう。

「大丈夫です。赤ちゃんのことを心配してのことだってわかってますから……」
「いや、俺は……。……まあ、間違ってはいないのか?」

 軽く頭を引き寄せられた。
 どきりと心臓が音を立てて、全身に緊張が走る。
 夏久さんは私の頭を引き寄せたまま、ぽんぽんと撫でてきた。

「あ、あの」
「……ん、ああ、食べづらいよな」

(そうじゃなくて)

 撫でてくれていた手が離れてしまう。
 夏久さんのぬくもりも一緒に遠ざかった。

「まだお礼を言ってなかったですよね。……ありがとうございました」
「……いいんだ」

 こんなふうに扱われたら期待してしまう。
 大量のサプリメントも、フルーツタルトも、私の身体を考えてくれてのこと。必要だと思ったからそうしただけで、嫌がらせでもなんでもない。
 しかも、触れてくれた。
 あの夜を思い出させるような、心を震わせる手つきで。

(嫌われても、嫌いになれない)

 だめだと思うのにまた胸の奥でたしかな想いが生まれてしまう。

(……あなたが好き)

 また抱き締めてほしいと強く願う。
 だけど、言えない。
 残ったタルトの最後のひと口は、ちょっとだけ切ない味がした。
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