クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 夏久さんが実際にどれだけの収入を得ているのか、どのくらい貯金をしているのか、妻として聞くべきなのかどうか悩んでいる。
 ただ、お金目当てに結婚を迫ったと思われている以上、ここに関しては触れない方が安全だろう。
 あまり負担をかけたくないという気持ちはある。その思いを、これぐらいではまったく負担になっていないのだと無理矢理納得させて忘れることにした。

 ふわ、と風が吹き抜ける。
 今日はいい天気だった。
 夏久さんが後で渋い顔をしなければ散歩にでも行っていたに違いない。

(ストレスを溜めない生活って意外と難しいのかも)

 風に煽られる髪を押さえて、ベランダから遠くの景色を見る。
 マンションの最上階というだけあって、見応えは抜群だった。
 と、そのとき、取り込む途中だった夏久さんのシャツがハンガーを外れてふわりと飛んでくる。

「あっ……!」

 落ちてしまわないように受け止めようとして失敗した。
 手をすり抜けたシャツは思いきり私の顔に着地する。

(……あ)

 鼻腔をくすぐった香りにこくりと息を呑んだ。
< 83 / 237 >

この作品をシェア

pagetop