獣人騎士団 アヴシャルーア

副団長 サミュエル Ⅲ

「あの…高くて怖いのですが…降ろしてもらっても、いいですか?」


サミュエルはハッとした。気づかず思いのまま、高く高く上昇していた。満月が、どんどん大きくなっていて、下にはキラキラ輝く宝石の煌めきの様な、海面が何処までも続いていた。人魚の長い艶やかな黒髪も、しっとり張り付いていたのに、今ではサラサラと風に靡いている。


「ごめん。高く上がりすぎた」


サミュエルは、下にゆっくり降りながら、俯いている人魚であろう者を間近で見て…


「君はアリスだね。髪の色が銀から黒に変化して、長さも違うけれど」

「貴方の事は、ルイ亭のダンさんからとても信用できる方だと、聞きました…知らないフリは…無理ですよね」


アリスは困った感じで応えた。


「取り敢えず。空中散歩、終了しようか」


サミュエルは、灯台の展望台にフワリと降りた。アリスの足をそっと着けて膝から手を離し、肩の手は添えたままだ。


「大丈夫か?暫くはフラつくだろうから、肩の手はこのままだ」



此処で初めて2人の視線が間近で混じり合った…すると…ぶわぁ~っとお互いの身体から匂いが目に見えるような感じで、湧き出て混じり合い2人を包み込んだ…

サミュエルは何も言葉にできず、頭が全く動かない…ただアリスの事が、愛おしかった。

こんな気持ち初めてで…言葉では言い表せない。唯一アリスに触れている肩にある手が、腕が熱く…もっともっと触れたい、全身で包み込みたいそんな欲求が湧き出てくるが、そんな事出来る訳無いので、必死で押し留めた。

アリスもしばらくは震えていたけれど、落ち着いてきたのか今度は近い距離のサミュエルが気になり出し、顔をチラチラ伺いながら…



「あの…何から話した方が良いのかわからないのですが…私はアリスです…

此処からかなり離れた森の中に、祖父と2人で静かに暮らしていました。両親は幼い頃に亡くなったと聞かされて居たのですが。一年前祖父が亡くなる時に生きていると聞き、海辺に住んでいると思う、と言うので海のある地域を探しています。

満月になり、海の香りを感じると勝手に身体が進み海に、浸かってしまって…髪の色と長さが変化するのです。魚も沢山寄ってきて…私は何なのですか?
海に近づかなければ良いと思って離れても満月になると何故か?自然と引き寄せられるんです…

いつも知らない間に海水に浸かって、変化して…魚も寄ってきてて…
何なんですか?私は何者なのでしょうか?判らなくて…相談する人も居なくて…わたしは…わたしは…」



泣き崩れるアリスを、サミュエルは抱きしめた。落ち着くまで髪を撫でていた。すると髪の色が…艶の良い黒髪から、光輝く銀色に変化していき。長さも足首まであったものが腰の辺りまでに縮んでいた。

改めてアリスの顔を見ると、蒼ざめてはいるけれど、とても綺麗な澄んだ紫の瞳の、整った容姿をしていた。瞳鼻唇と、パッと見た目派手では無いが目に入ると、何かしら惹きつけられる、そんな容姿だ。スタイルも良く、スラリとした品の良い佇まいをしている。



「とにかく、此処にいても風邪を引いてしまう。私の家に来て落ち着いて、色々話しをしないか?アリスが嫌で無ければ…」


アリスは泣きながら、コクンと1つ頷いた。


サミュエルは、アリスをゆっくり大事そうに抱き上げて、翼を広げ飛び上がった。
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