【完】君に惚れた僕の負け。
朱里くんの指が頬を伝って、髪を撫でる。


思わず片目を細めたら。



「恋々の余裕ないその顔さぁ、」



バカにするみたいに言うから、顔を精一杯背ける。

どうせ真っ赤だって笑うんでしょ。



「……見ないで」


「そういういじらしい顔もね」



まだ馬鹿にする気!?



そう思って、睨むようにすぐそこの朱里くんの顔を見たら。



「……かわいすぎか」



――ゴツンッ!



「いったぁ……っ!なんで頭突きするの!?」


しかも結構な力で……痛い、痛すぎる。


やり返そうと思ったら、朱里くんの手の平は見事にあたしの頭をキャッチした。



「……反射神経いいね」


「恋々よりはね」


「運動神経良くても、歌は下手なくせに」


「人のこと言えねーだろ」




うん。まぁ、そうみたいだよね。


あたしたちのデュエットが廊下に漏れてたのか、歌ってる最中に色んな人がこの世の終わりみたいな顔しながら部屋の前を通ってたもんね。



そんなに音痴だったのかなぁ?


首を傾げながらなんとなくドアの先を見ると、小さい子を連れた家族が楽しそうに向かいの部屋へ入っていった。


へぇ、幼稚園児もカラオケできるんだぁー。


「あたしと朱里くんの子供ってぜったい音痴だよね」


「……ん?」



「だってあたしも朱里くんも音痴だから」



朱里くんは時間をかけてあたしの方に顔を向けると、

疑うようにこっちを凝視する。



「……え、なに?」



なんでそんな目であたしを見るの?


一呼吸置いて、朱里くんは言った。



呆れっぽく口角を上げて。



「へぇー。恋々は俺との子供うむんだ?」



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