【完】君に惚れた僕の負け。
「……っ! いや、そういう意味じゃ」


断じて、そういう意味じゃなくて!


なんとなく思って言っただけで。


ひぇっ。



いつの間にか、あたしの肩に朱里くんの腕が回されていて、思わず縮こまる。



「いいよ、俺は。音痴な子は可愛いと思うよ?」



この距離で言わないで……っ。


近い。心臓が破裂する。目がぐるぐるまわりそう。


こんなにいっぱいいっぱいなのに、朱里くんの指があたしの顎をもちあげた。



もうだめ。心臓が……呼吸が……倒れたらどうするの。


目をぎゅっととじたら。



「四ノ宮恋々にしてあげよっか?」



え……?
本当にそう思ってくれてるの……?



耳元で囁かれた優しすぎる声に、ドキドキしながら目を薄く開く。


……だけどそこにあったのは、思いっきり嘲るような笑みだった。



もうその顔を見れば次に出てくる言葉なんかあたしには一瞬で読めた。



おそらく。
ーーうそだよ、バアアアアカ。




あたしの頬にだらしなく浮かびかけていた笑みはさっと消える。



……しゅ、り、くん、の。



「……っ、ばかぁ!」


――バチーン。



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