腕の中の静けさは・・・
秋の気配を感じるソウルの夜。
子供たちが寝静まった寝室で鏡に映る自分に引き寄せられ腰を下ろした。

ここに座ったことはたぶん一度もない。





鏡をのぞくとベッドに眠る子供たちが見えた。


目の前にある色とりどりの瓶に触れる。

その途端に溢れ出す思い。

とめどなく溢れる涙。



一度も開けたことのない引き出しに手を置く。




そんなにジュエリーをプレゼントした記憶はない。

でもそこには無数の高そうな箱たち。
一つ一つあけてゆく。


手入れのゆき届いたジュエリーはどれもこれも見覚えのあるものだった。



その中にひっそりたたずむ懐かしい小さな箱

引き出しの一番奥に手を伸ばす


わくわくしながら選んでドキドキしながら渡した婚約指輪。
取り出して開くと浮かぶ笑顔に胸がいっぱいになった。


指輪に負けないくらいキラキラ輝いていた天音の笑顔・・・



「ぅぅ、、、、、、、天音、、、なんで、、どうして、、、、」









手前の大きな箱を取り出すとパサっと倒れてきた封筒に目が行く。


手に取ると柄の違う3通の封筒があった。



なにも書いてはいなかったけれど
それぞれ誰に宛てたものかは簡単にわかってしまう。

心拍数が上がって呼吸が苦しくなりバスルームに駆け込んだ。









震える手で吸入器を口に押し込んだ。








徐々に整う呼吸。

でも・・・



目の前に広がる光景、
目に付くもの
触れる感触

この家の中のすべてに天音を感じるから・・・
感じてしまうから・・・


天音がソウルに行くって決まった時は

そばに、、、
家の中に、、、
オレのまわりに天音を感じることが出来ない


なんて思ったのに今は天音を感じる全てのものに苦しくなるなんて・・・


何度も乱れる呼吸を一生懸命飲み込み
とめどなくあふれる涙を何度もぬぐう

その動作をしばらく続けると呼ばれたその声に心臓が止まりそうになる。



「ユソナ?」





慌てて両手で顔をこすりカノンに声を掛ける。




「どうした?」

「ん、おしっこ」

「ああ、そっか。行こ」


目をこすりながら「うん」って言ったカノンの手を握ると不思議そうにオレを見あげた。





うん、、、ごめんな。





思いのほか強く握りしめたこと自覚してるから・・・


ごめんなカノン・・・









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