極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 アランの言葉に文香は少し目を丸くしてからくすりと肩を揺らして笑う。
 
 そのやりとりを少し面白くなく感じて、ふたりの会話に割って入った。

「迷惑なんてかけないから安心しろ」
「ただ挨拶をしただけで不機嫌になるなんて、うちのボスは器が小さいな」

 仏頂面になった俺を見て、アランは愉快そうに声を上げて笑った。
            

 飲み物を注文して文香がテーブルを離れると、アランは店内を見回し頬杖をつく。

「結貴の想い人が働いている店に文句を言うのは気が引けるけど、雰囲気の悪い店だな」

 その言葉にうなずく。

 昼を過ぎた時間だからか、店内にいる客は多くない。
 けれどテーブルには食事後の皿やグラスがいくつか放置されたままになっていた。
 
 人手が足りないのかと思えば、カウンターの前には文香と同じ制服のスタッフがひとり立っている。
 彼女は手櫛で髪をなおしたり自分の爪を眺めたりして一向に動く気配がない。

 文香だけが忙しそうに動き回っていた。

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