極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています

　その状況を不可解に思っていると、ホールスタッフの女は文香のエプロンのポケットから名刺を取り上げた。

　そこに書かれた『葉山製薬　副社長秘書』というアランの肩書を見て「キャー！」目の色を変える。

　俺たちが注文したドリンクが厨房から出てくると、文香を押しのけるようにして奪いこちらにやってきた。

「お待たせしました」

　彼女がテーブルにグラスを置き、ねっとりした口調で話し始める。

「名刺見ました。葉山製薬の副社長さんと秘書さんなんですね。お店に入ってきたときからどこかで見たことあるなぁって思ってたんです。前にニュースに出てましたよね？」
「名刺をご覧になったんですね。私は白石さんに名刺をお渡したつもりなんですが」

　俺が口を開く前に、アランが棘のある微笑みを浮かべた。

「白石さんっていつもお客さんから名刺をもらったり声をかけられたりするんですよ。だから、問題がおきないように拝見しただけです。白石さんは仕事中に男に媚びをうることばかり考えてるから、正直迷惑しているんですよ」