極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「そういうわけじゃないけど」
「そもそも、完璧な親なんていないさ。子供が求める全てを与えてあげられる親なんてどこにもいない」
「じゃあ、私はどうしたらいいの? 私ひとりじゃ、未来を幸せにしてあげられないのかな」

 自分の膝を見下ろしながら弱気な言葉を口にすると、祖父の手が私の肩に触れた。
 顔をあげると、まっすぐに見つめられた。

「だから、未来に負けないように文香も成長しなさい」
「私も成長?」
「今までは生活していくのに必死だっただろうけど、これからはいろんなものを見て、新しい世界を知って、もっともっと欲張りになりなさい」

 祖父の口調は穏やかだけど、力強かった。

「幸せになるために、もっとあがきなさい。愛する人を手に入れるために、勇気を出しなさい」
「愛する人って……」
「葉山さんのことが、好きなんだろう?」

 その問いかけに、息をのむ。
 
 祖父は私の答えを聞かなくても、もうわかってる。
 たぶん、彼が未来の父親だということも。
 
 誤魔化しも嘘も無意味だ。
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