極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 強引に室内に入ってきたのは、結貴ではなかった。

「白石さん、ずいぶん楽しそうだね」

 興奮状態なのか、は、は、と息を荒くしながら私を見下ろすのは、三嶋店長だった。

 悲鳴を上げそうになり、なんとかこらえる。
 私の背後では、未来が不思議そうにこちらを見ていた。

「て、店長……。なんの御用ですか?」
「なんの御用って、ずいぶん冷たいね。まるで他人行儀じゃないか」

 前に職場ではお世話になっていたけど、今はもうやめて私たちは他人だ。
 だけど、そう言えば彼の怒りを買いそうで、私は震えながら頭を下げる。

「あの、お店を挨拶もせずに辞めてしまってすみません……」
「本当にひどいよね。俺は白石さんにあんなに優しくしていたのに。飼い犬に手を噛まれるってこういうことを言うのかな」

 この人は、なにを言っているんだろう。

 眉をひそめると、店長はこちらを見て笑う。

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