極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「本社に俺の横領を報告したのも白石さんの差し金? おかげで店はクビになるし、再就職先は見つからないし散々だよ」

 店長は土足のまま部屋に入ってきた。
 座卓の前で正座していた未来を見て、目を細める。

「いやぁかわいいね。白石さんそっくりだ」
「未来に、触らないでください」

 私は慌ててしゃがみこみ、未来の方へ手を伸ばした彼の前に割って入る。

「未来ちゃんっていうんだね。先週白石さんが留守の間、あの男と仲良く料理をしていたよね。ふたりが楽しそうにお話している声を聞いていて、腹が立っちゃったよ」
 
 先週私が美容室から帰ってくるとき、黒づくめの服装にキャップを深く被った男がアパートの前にいた。
 あれは店長だったんだ。

「未来ちゃんもママといっしょで、お金持ちの男にすぐ懐くのかな?」
「なに言ってるんですか!」

 未来を背中にかばって店長を睨む。
 でも彼の視線はどこかうつろで私の声は耳に届いていないようだった。

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