極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「白石さんはシングルマザーで頼れる人もいなんだから、簡単に仕事をやめられないだろうと思ってたのに。頼れるのは俺しかないと思っていたのに。こんなの、とんでもない裏切りだよ!」

 怒鳴り声とともに、店長は乱暴に近くにあった棚を蹴り上げた。

 大きな音に未来がおびえて悲鳴を上げる。
 私はとっさに小さな体を胸の中に抱きしめ、手で未来の耳をふさいだ。

「やめてください!」

 店長はおびえてうずくまる私たち母娘を、感情の見えない真っ黒な瞳で見下ろしていた。
 
 そして棚から飛び出し床に散らばったものに視線を向ける。

「これ、あの男にもらったの?」

 彼が拾い上げたのは、手のひらサイズの小さな箱だった。
 中には豪華で美しいダイヤの指輪。

「ちが……っ」

 やめて。さわらないで。
 その汚らわしい手で、大切な指輪に触らないで。
 
 そう叫びたかったけれど、必死にこらえる。

「ふーん。ずいぶん大きなダイヤだね。これ、売ったらいくらになるかな」

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