極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 その言葉に、心臓が大きく跳ねた。
 
 五年前、結貴から渡されたこの指輪とプロポーズをされた思い出を大切にしながら生きてきた。
 つらいとき、寂しいときはいつも、この指輪をながめながら自分をはげましてきた。
 
 それを、こんな人に奪われたくない。だけど……。
 
 ゆっくりと息を吐き、震える唇を開いた。

「それで気が済むなら、差し上げます。だから、もう二度と私たちにかかわらないでください」

 私がそう言うと、腕の中の未来が顔を上げてこちらを見る。

「ママ! あれはママのたからものでしょう!?」
「いいの、大丈夫」
「でも……っ!」
「俺の気持ちをもてあそんだんだ。これくらいもらって当然だよな。じゃあ今日はこれで帰ってあげるよ」

 店長は指輪が入った小箱を手に玄関へ向かう。

 よかった。帰ってくれた。
 私がほっと肩をなでおろしたとき、腕の中から未来が飛び出した。

「かえして! それはパパがママにプレゼントした、だいじなゆびわなのっ!」
 
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