極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 しょんぼりと眉を下げ瞳を潤ませた未来に、結貴は優しく微笑む。

「今日はもう帰るけど、また会えたら今日みたいに一緒にお話してくれる?」
「うん! またおはなししたい!」

 無邪気にうなずいた未来に、結貴は「じゃあ、約束」と小指を立てる。
 楽しそうに指切りをする様子を、私は複雑な思いで眺めていた。

「お騒がせしてすみません。どうかお大事にしてくださいね」

 結貴は祖父に向かって丁寧に頭を下げる。
 
 祖父に「葉山さんを下まで送ってあげなさい」と言われ、断るのも失礼かと思いふたりで病室を出る。
 
 こうやって結貴と並んで歩くのは何年振りだろう。

「あの、今日はわざわざありがとう」

 私がお礼を言うと、結貴は歩きながらこちらを見下ろした。

「文香。未来ちゃんの父親は……」

 ぎくりと背筋がこわばる。
 もしかして、結貴の子供だってばれた……?

「俺と別れたときに、好きだって言っていた男?」

 よかった。ばれていなかった。

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