例えば、こんな始まり方
同じころ、宮崎ブーゲンビリア空港。長い髪の女性が到着口から出てくる。ひどく疲れた様子だ。

「美沙・・・。大丈夫?」

美沙の母が気遣うように言う。

「もう、あたしには、何も残っていないわ・・・でも、お金という形では、もらってるから心配しないで。純のやつ、ほんとバカよね。東京行きの新幹線のチケットと数千円の他は、みんなあたしにくれるなんて・・・」

美沙の目から涙がこぼれだす。

「純一さんの、せめてもの償いなんじゃないかしら」

「純は、何も悪くないのに・・・悪いのは、あいつらよ。無茶なフランチャイズの話を持ち掛けて、純から全てを奪ったんだわ」

「じゃあ、一緒にいたらよかったのに」

「純は、ぬけがらだった。あんな純と一緒にいるのは耐えられなかったのよ。純が離婚を言い出したとき・・・ほっとしたの。ひどい女でしょ?」

美沙の涙は、溢れて止まらなかった。

「あたしが、純の負担になっているのかもしれない、と思ったの。純は1人の方がやりなおせると。ひどいよね、たった3年だったけど、夫婦だったのに。永遠を誓い合った、夫婦だったのに」

とん、とん、と美沙の母は美沙の背中を優しくたたく。そして、優しく聞く。

「これから、どうすると?」

「しばらくゆっくりする。落ち着いたら、保育士の仕事をまたするわ」

「そうなの。そう思ってるならよかったわ」

それから、2人で特急に乗り、実家のある日向市駅に向かった。
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