例えば、こんな始まり方
「真由・・・愛してるよ」

ふいに、純一が言った。

「え、な、何、急に。愛、だなんて。今まで、そんなこと言わなかったじゃない」

純一が料理を作っている私の後ろに来て、抱きしめる。どきんっ。純一くん、どうしちゃったの?

「急じゃないよ。少しずつ、君を愛し始めてた。ただ、言葉に出来なかっただけだ。いい職場を紹介してくれてありがとう、真由。感謝してるんだ。身元も分からずに僕を拾ってくれた時から、好きだった。今は、もう、君への想いでいっぱいだ」

「あたし、も」

真由は言った。

「きっと、あなたを愛してる。じゃなかったら、こんなに一生懸命できない・・・でも」

「でも?」

「前の奥さんは?」

「バツイチ、気にする?」

「ううん、そう言うんじゃなくて、気持ちは残ってないのかな、って」

「もう、彼女は『過去』だ」

「信じていいのかな」

「じゃなきゃ、プラチナリングを売ったりしない」

「そうだね」

2人は、そっと、キスをした。そうするのが当たり前だったように。

「酢鶏、出来上がるよ」

「よそって。僕、運ぶね」

テーブルについて、純一は真由の酢鶏を一口食べて

「うまい!」

と言ってくれた。

「1日目のキッチンはどうだった」

「きつかったけど、やりがいがあったよ。料理長もいい人だし、もちろん、お姉さんも」

「よかった。働く相手って重要よね」

「そうだね。僕、ラッキーだな。彼女にも恵まれてラッキーだな」

私は、さっきのキスを思い出して赤面した。そっか、彼女になったんだよね。
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