例えば、こんな始まり方
「おはようございますっ!」

「おはよう、中山くん。10分前ね、パーフェクト。まずは、制服に着替えて。Mサイズで大丈夫よね?」

「と、思います。更衣室はどこですか?」

「キッチンの奥に休憩室があって、その隣よ。」

「ありがとうございます。着替えてきます」

着替えてみると、ズボンの丈が少し短かったが贅沢は言えない。気にならない程度だ。

「着替え終わりました!」

と言って、ホールに戻ってきた。

「じゃあ、キッチンで、マニュアルを見てもらえる?9時45分になったら、料理長がいらっしゃるから、彼の指示に従って調理を進めてもらえばいいから」

「はいっ。カットの仕方とか、練習していてもいいですか?」

「構わないわ。とりあえず、料理長が来るまで、自習ね」

純一は、マニュアルと首っ引きになり、練習を重ねた。パフェの果物の飾り切りや、シチューの具材の飾り切りなど、やりなれない作業に苦戦していた。

そのうち、料理長がやってきた。

「中山純一です。今日からよろしくお願いします」

「料理長の岡田健です。スピードも大切だけど、ここはカフェだから、どこか可愛らしさを意識した盛り付けを心がけてほしい。マニュアルは読んでくれたね?」

「はい、ひととおり」

「あとは、実践で覚えてもらおう。もうすぐ、オープンだ。ランチが入るのは11時くらいからだが、その前は、パフェやアラモードが出ることが多いからな」

「はいっ!分かりました」

『ブロッサム』がオープンし、少しずつ、お客さんが入ってきた。純一の作ったプリンアラモードもパフェも料理長のお眼鏡にかなった。忙しくなってくるランチも、そつなくこなした純一だった。

「腕がいいな。これからも期待しているぞ」

岡田料理長が笑顔で言う。

午後5時。純一のシフト終了の時間だ。

「お疲れさん。今日は疲れただろう。帰って、ゆっくり風呂にでも入れ」

というねぎらいの言葉を岡田料理長からもらった。

「中山くん、今日はよくやってくれたわ。これからも、この調子でよろしくね」

紗季も笑顔で送り出した。

純一は、真由のアパートに帰ると、ベッドに直行して、横になった。疲れたぁ。

気がついたら、眠ってしまっていたようだ。鼻をくすぐるいい匂いがする。

「あっ、純一くん、起きた?よっぽど疲れてたのね。もうすぐ、夕食出来るよ」

時計を見ると、7時半。2時間くらい、寝ていたのか。

「いい匂いだ。何作ってるの?」

「酢鶏よ。カフェでは、中華はないだろうから。もうちょっと、待ってて」
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