例えば、こんな始まり方
美沙は、ぱらぱらっ、と2人の電話メモをめくって、純一の親友、森谷悠翔(もりや はると)の番号を見つけた。頼りになるのは、彼しかいない。

スマホに悠翔の番号を登録し、電話をかける。5コール目で悠翔が出た。

「もしもし?どなたですか?森谷ですけど」

という、怪訝そうな声。

「あの・・・純一の妻の美沙です」

「あっ、美沙さん。いつもお世話になってます。今日は、どうしたんですか?」

「実は・・・」

と、かいつまんで、今までのことを話した。詐欺に遭ったこと、美沙の父に借金をしたこと、純一が離婚届を残して出て行ったこと、純一がまたカフェで働きだしたこと・・・。そして、美沙は、まだやり直したい気持ちがあること。

「う~ん。そいつは難しいんじゃないかな。純のやつ、もう新しい生活を始めてるし、一度こうって決めたら曲げないやつだから」

「それでも・・・もう一度、逢いたい。純と、やり直したい。お願い、私のことは言わないで、純に電話してくれないかしら」

「そのくらいは・・・できるけど。純に、会いに行くの?」

「それは、分からないけど・・・純がどうしているか、知りたい」

「分かった。電話してみるよ」

美沙は、心から安堵した。これで、大丈夫だ。また、純と会える。会ったら、絶対にやりなおせる。

「ありがとう」

そう言って、電話を切った。窓の外には満月が浮かんでいる。
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