例えば、こんな始まり方
翌日の夜、悠翔は、純一に電話をかけていた。

純一は、夕食を済ませ、私と談笑していたところだった。

「もしもし、悠翔?随分ひさしぶりじゃないか、電話かけてくるなんて。半年ぶりくらい?」

「何で言ってくれなかったんだよ!!」

悠翔の鋭い声が、電話口から漏れて、私は当惑した。

「・・・っっ。美沙か。もう、追い詰められていて、お前に相談するどころじゃなかったんだよ」

「なんでだよ??俺ら、親友だろ?」

「だからこそ、だよ。・・・って言うか、成功してるお前に嫉妬してたのかもな」

純一は、吐き捨てるように言った。悠翔は、大手外資系企業の営業で、1年の半分はアメリカにいる。

「俺なんて・・・働きバチだよ。自立してたお前の方がすごいさ」

「結果、ああなっちまって、借金も抱えて、か」

「もう、新しい一歩を踏み出してるんだろう?」

「それも美沙に聞いたのか。吉祥寺の『ブロッサム』ってカフェのキッチンで働いてるよ」

「ああ。美沙はやり直したがってるけど・・・お前のことだっから、無理だよな」

純一は、一瞬黙った。もう新しい彼女が出来たって知ったら、美沙は傷つくだろうが、事実は事実だ。

「じつは、僕を『拾って』くれた女性がいてね。すごく優しい女性で、その娘に惚れてるんだ。彼女も僕を愛してくれている」

「幸せなんだな」

「あぁ。美沙に、プラチナリングは売ったって伝えてくれ。僕らはもう終わったんだって」

「分かった。新しい人生を楽しんでくれ。たまには、連絡くれよな。・・・って、俺が連絡とりにくいんだけど、夜中でも、メールならいいから」

「あぁ、また、連絡する」

電話を切って、悠翔はため息をついた。この事実を美沙に言ったら、美沙のことだから、乗り込んでいくことだろう。美沙から電話が来るまで、保留にしとくか。
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