例えば、こんな始まり方
「中山くん、ちゃんと離婚届を出しておくべきだったわね」

「まさか、美沙に未練を持たれているなんて、思ってもみなかったんです」

「で・・・その1千万はどうするつもり?うちは、そんなに高給じゃないわよ?」

「美沙のお父さんのご厚意で、無利子、無期限で貸していただけたんで・・・ゆっくり返します」

「真由とは・・・どうするの?返し終わるまで結婚しないの?真由もいい年よ」

お姉ちゃんたら・・・。

「それは・・・早く結婚したいと思ってます」

純一の視線が私をとらえた。不安げな顔が、少し安心した顔になっただろうか。

「真由の貯金をアテにしているわけじゃ・・・」

私が、割って入る。

「やめて、紗季姉さん!純一くんはそんな人じゃない」

「真由・・・あなたは中山くんの何を知っているの?確かに、しっかりした仕事ぶりだし、まじめだと思う。でも、1千万よ?」

「僕は・・・僕は、美沙の負担になりたくなくて別れた。妻の財産をアテにするほど、僕は腐ってない」

「でも、ね、私、純一くんを」

純一が私を見つめる。

「助けたい、と思ってるよ。私、貯金、300万くらいしかないけど、あなたを愛してるから貸してあげたい。

「真由・・・。美沙のお父さんは、美沙から助けてもらうことは絶対に許さなかったんだ」

私は、穏やかに微笑む。

「純一くん。あげるんじゃないよ?貸す、っていったの。いずれは純一くんが返してくれると信じてるから」

「ありがとう・・・。真由は優しいな」

「コホン!」

紗季が咳で合図した。

「1千万の話はそれでOKね。私も、2人の幸せを祝福するわ。美沙さんは計画性のある系?」

「でもないです。衝動型かな。だから、今日来るかな、と思って、真由にも有休とてもらったんだ」

「うん、そうなの。東京にいるの知ってから、『ブロッサム』の場所とか調べるのすごく早かったから。その勢いで来るかな」

「そう・・・覚悟していましょう。真由は、ホールを手伝っていてね」

「了解」
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