例えば、こんな始まり方
10時になり、ブロッサム、オープン。少しずつ客が入ってくる。11時になるころには満席だ。11時にはランチが始まるので、純一も忙しくなる。

覚悟してはいたものの、4時になっても美沙は現れなかった。今日は来ないか・・・?と思った4時半ごろ、ドアをバタンと開けて、

「カランカランカランカラン・・・」

鳴り響く鈴、血相を変えた、綺麗な藤色のワンピース姿の長い髪の美しい女性が現れた。

「いらっしゃいま・・・」

私が言うと

「中山純一はいる?」

その人は急き込んで言った。あぁ、この人が美沙さんだ。きれいな人。微笑(わら)っていたら、もっときれいなのに。

何の騒ぎかと、他の客たちが美沙を見つめる。客の入りは6分と言ったところか、それなりに多かった。

「純一くんなら、キッチンにいますが・・・ここは職場です。用事があるなら、5時にシフト上がりですから、外ででも」

「あなた誰?」

怪訝そうに私の顔をじろじろ見る。

「純一くんは、私の恋人です」

「あなた・・・が。純の好みも変わったものね」

美沙の顔が、怒りに歪んだ。

「紗季姉さん」

「真由・・・」

心配そうな紗季。

「純一くんに・・・隣の『セ・ラ・ヴィ』に美沙さんといるって・・・上がったら来て、って言って。で、いいですよね、美沙さん?」

「ええ」

「真由、大丈夫?」

「大丈夫よ。心配しないで。ま、じゃぁ、そういうことで、美沙さん、行きましょう」

しぶしぶ、美沙が私のあとを付いてくる。

「セ・ラ・ヴィ」は、アットホームな感じの「ブロッサム」とは違って、高級感あふれるお店だ。紅茶1杯1500円する。2人とも、レアチーズケーキとアールグレイのセット、2100円を頼んだ。紅茶とケーキが来てから話し出した。

「それで・・・純とはどこで知り合ったの?」

「コンビニの前で。お腹空いて倒れた彼を『拾い』ました」

「へ?何それ」

「『例えば、こんな始まり方があってもいいよな』『僕は真由を捨てない・・・って言うか僕が拾われたんだっけ』って、笑ってくれました、純一くん」

「・・・一緒に住んでるの?」

「はい」

「そう・・・すごく愛しそうに話すのね」

「今となっては、純一くんなしの自分は考えられません」

美沙は、カッとなって強く出た。

「でも、私は純の妻よ」

「けど、純一くんは、2人のプラチナリングを売り払いました!」

私だって、負けちゃあいられない。

「プラチナリングなんかなくたって、戸籍上は・・・」

「それって、空しくないですか?」

パチン!美沙が私の頬を平手打ちした。
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