例えば、こんな始まり方
「ただいま~」

「おかえり、真由っ♪早かったね~」

純一が満面の笑顔で答える。グレーのトレーナーにジーンズ、といういで立ちだ。今日、買ってきたのだろう。

「今日の夕食は、ミネストローネとチキンステーキとサラダ、だよっ。もうすぐできるから、待ってて」

「うん」

いつまでも、純一に『主夫』をやらせるわけには行かない。明日は、土曜日だ。2つ上の姉、紗季(さき)の経営するカフェに連れて行ってみようか。

「出来たよ~」

「あ、並べるね」

純一の作った料理は純粋においしかった。カフェで、この腕をふるえればいいんじゃないかな。

「純一くん、あのね、私の姉がカフェをやってるんだけど・・・そこのキッチンを手伝ってみない?」

「僕が?いいの?・・・僕の経歴とか知らないよね」

「もちろん、履歴書とかは書いてもらう。雇うか雇わないかは姉次第だから、保証はできないけど私も後押しするから」

「ありがとう。ホントに感謝する!」

「履歴書用紙、私の使っていいよ。証明写真は、コンビニの角にボックスがあるから・・・お金、まだ残ってる?」

「大丈夫だよ。服、お買い得なの買ったから、3000円くらい残ってる」

「オッケー。じゃあ、姉に連絡するね。食べ終わったら、写真、撮ってきて」

純一がアパートを出ると、私は紗季に電話をかけた。

「あ、紗季お姉ちゃん?真由だけど。仕事中にごめんね」

「いいのよ、珍しいわね、真由が電話くれるなんて。元気にしてるの?仕事は順調?」

「うん、元気。仕事もぼちぼちかな。実はね、知り合いの男の人が、カフェのキッチンの仕事を探しているんだけど、紗季お姉ちゃんのところで雇ってもらえないかな」

「人柄にもよるけど・・・。うちは慢性人不足だから、明日、面接に来てもらって。17時ごろがいいかな」

「ありがとう」

「その男の人って、もしかして、真由の彼氏?」

「ち、違うわよ。ただの友達」

「ふ~ん?」

と、何か聞きたげな紗季。

「じゃあ、明日、午後5時にね。ブロッサムに連れて行くわ」

「うん、よろしく~」

電話を終えたころ、写真を撮り終わった純一が帰ってきた。
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